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TCFD提言への取り組み

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伊藤ハム米久グループの考え方

伊藤ハム米久グループは、地球環境の保全が全世界共通の最重要課題のひとつであることを認識し、事業活動を通じて地球環境に配慮し、持続可能な社会を実現するために積極的に行動することを環境理念に掲げています。
当社では、G20の要請を受け金融安定理事会(FSB)により設立されたTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の提言に賛同するとともに、気候変動関連リスク及び機会について適切に開示してまいります。

TCFDの提言に沿った情報開示

ガバナンス

当社は、地球環境の保全が全世界共通の最重要課題のひとつであることを認識し、事業活動を通じて地球環境に配慮し、持続可能な社会を実現するために積極的に行動することを環境理念に掲げています。中でも気候変動に起因するリスクと機会への適切な対応は重要な経営課題であると認識し、全社を挙げて取り組みを進めています。 当社の気候変動に関する基本方針・戦略の策定、取り組み指標の設定や進捗のモニタリング等については、取締役会の諮問機関であるサステナビリティ委員会での審議を経て取締役会にて審議、または報告がされています。 当社のサステナビリティ委員会は、取締役常務執行役員管理本部長が委員長を務め、各事業部門の関連する責任者及び社外有識者が委員として参加しており、社外の知見も得られる体制を整えています。2022年度は同委員会を7回開催し、以下について議論を行いました。

また、各事業部門、及びコーポレートの各部署にサステナビリティ推進委員を任命し、サステナビリティの取り組みを各事業部門・部署に周知し会社全体でサステナビリティへの取り組みを加速させる体制としています。

戦略

当社は、畜産物及び畜産加工品を取り扱う事業を展開していることから、気候変動に伴う気温上昇による家畜への影響や自然災害の激甚化によるオペレーションの中断等に加え、社会の脱炭素化の流れの中で進む畜産品の需要低下等、当社事業が気候変動により様々な影響を受ける可能性があると認識しています。このような状況下、その発生可能性に拘わらず、あらゆるシナリオを想定して当社事業にとってのリスク及び機会を把握し、その対応策を検討することは当社事業の持続可能性を高める上で有用であると考えています。 当社は、2021年度にTCFD提言に則った分析を開始し、当社にとっての気候変動関連リスク・機会を洗い出し、定性的なリスク評価を実施しました。2022年度は、この分析を深化させるべく、各事業部門の責任者及び事業戦略責任者を交え、当社事業に特に大きな影響を与えると考えられるリスク・機会について定量・定性的な事業インパクト評価を試みました。今後は、対象範囲を拡大して検討を進めていきます。

1.シナリオ分析の前提

分析対象事業

加工食品事業及び食肉事業

分析基準年

2030年(中期)、2050年(長期)

気候シナリオ

FAO(Food and Agriculture Organization of the United Nations、国連食糧農業機関)が発行するThe future of food and agriculture-Alternative pathways to 2050におけるStratified Societies Scenario(SSS)等を4℃シナリオ、Towards Sustainability Scenario(TSS)等を2℃シナリオの気候シナリオとして採用しています。また、炭素価格については、IEA(International Energy Agency、国際エネルギー機関)のWorld Energy Outlook 2021のSustainable Development Scenario(2℃)及びNet Zero Emissions by 2050 Scenario(1.5℃)を参照しています。

2.当社にとっての気候変動関連リスク・機会

社会の脱炭素化が進んだ場合(移行リスク)と進まない場合(物理的リスク)における2030年・2050年の事業環境を想定した、当社にとっての主な気候変動関連リスク・機会は以下の通りです。重要度については、発生可能性及び当社事業に対する影響度から定性的に判断しました。

3.事業インパクト評価結果及び対応策

当社事業に特に大きな影響を与えると考えられるリスク・機会を2022年度の定量・定性分析の対象としました。なお、いずれも加工食品事業・食肉事業の両方に影響を与えるものの、2022年度は、カーボンプライシング以外は主な対象事業に絞って分析を実施しました。2023年度以降は、分析対象リスク・機会及び対象事業を拡大して分析を行っていくことが課題であると認識しています。


定量分析の結果は、以下の通り当社営業利益への影響額に応じて4段階で評価しました。

夫々のリスク・機会に対する分析結果及び今後の対応策は以下の通りです。なお、これら分析結果は、各気候シナリオを前提とした当社の認識であって当社の将来見通しを示すものではなく、不確実性を伴うものであります。


◆移行リスク
 

社会の脱炭素化が進むに伴い、当社が事業を行う国・地域においてカーボンプライシングが導入された場合、当社グループ※事業からのGHG排出量に応じて以下の通りコスト増となる可能性があり、特に1.5℃シナリオ下においては大きなコスト負担となる可能性があります。
※当社および当社子会社



<対応策>
当社は、当社グループのGHG排出量を2030年度までに半減(2016年度比)、2050年ネットゼロとする削減目標を掲げ、GHGの排出削減に取り組んでいます。削減目標達成に向けたロードマップを策定し、着実に削減を進めると共に、削減を促進する社内制度の整備も検討していきます。 具体的な削減の取り組みとして、太陽光発電設備の設置、製造拠点における高効率・省エネ設備の導入、再エネ電力への切り替え等を検討しています。当社の食肉海外子会社であるANZCO FOODSにおいては、高温ヒートポンプの導入による石炭ボイラーの使用削減、牛のフィードロットにおけるメタン排出抑制についての研究機関との共同研究、食肉処理場への太陽光発電設備の設置等を進めています。 また、当社は畜産業を営んでおり、当社グループのGHG排出量の約15%を家畜由来の排出が占めています。現時点では、家畜由来の排出を削減する効果的な方法が確立されていませんが、以下のような取り組みを通じて、畜産産業全体の課題解決に貢献していきます。

肉用牛生産における温室効果ガス削減可視化システム構築事業

当社は、全国肉牛事業協同組合と東京農業大学が共同実施する「肉用牛生産における温室効果ガス(GHG)削減可視化システム構築事業」に、当社の和牛生産事業の協力農場である「みらいファーム株式会社」を通じて協力しています。本事業は、①牛のゲップ中のメタンが削減できる飼料の給餌、②排せつ物の早期の好気性発酵促進等、先進的な取組事例におけるGHG削減の実態を科学的に把握し可視化することにより、肉用牛生産者に対してGHG削減対応の方向性を提示できる仕組みの構築を目的としています。 当社は、みらいファームで肥育する一部の黒毛和種の飼料に、牛のゲップ中のメタンを抑える働きのある天然素材由来のカシューナッツ殻液飼料(ルミナップ®※)を2021年6月より給餌しており、その経験を踏まえて今回の事業協力にいたりました。この飼料の給餌効果による実証実験に協力していくことで、牛のゲップ中のメタン削減の普及に寄与し、畜産業に携わる企業として環境負荷の低減に取り組み、持続可能な和牛生産事業を推進してまいります。
※ ルミナップ®は、株式会社エス・ディー・エス バイオテックの登録商標です。


2℃シナリオにおいては、社会全体で環境保全や脱炭素化が進み、より社会・環境負荷の低い製品に対する購買意欲が見られるようになります。先進国を中心に、環境負荷の低い食品への需要シフトが起こるとの前提の下、食肉消費量は2030年、2050年と大幅に減少し、特に日本においては、2012年比で2030年15%減、2050年27%減となることが見込まれます。その他の国・地域においては、経済成長に伴い、2030年までは食肉の需要は増加するものの、2050年に向けて減少することが見込まれます。 2℃シナリオ下においては、当社加工食品事業の主な市場である日本における食肉需要の減少に伴い、ハム・ソーセージなどの当社の畜産品の需要も減少する場合、中・長期的に当社加工食品事業の売上に大きな影響を及ぼし得るものと認識しています。

<対応策>
当社は、畜産品の需要減少に対する対応策として、植物性たんぱく質製品の開発・販売を既に進めています(詳細は「機会」の項目ご参照)。さらに、培養肉をはじめとしたその他代替たんぱく質の研究開発、調理加工品などの売上拡大を検討していきます。また、当社は牛・豚・鶏それぞれにおいて豊富な商品ラインアップを展開しているため、消費動向を見極めながら畜種間の需要シフトにも柔軟に対応することができると考えています。


培養肉

当社は、「3Dバイオプリントによる食用培養肉製造技術に関する社会実装の具体的な取り組み」を目的に、大阪大学大学院工学研究科、凸版印刷株式会社と「培養肉社会実装共同研究講座」を開所し、主体的に研究を進めると共に、株式会社島津製作所、株式会社シグマクシスを交えた5者で「培養肉未来創造コンソーシアム」を設立しました。企業を超えた協業により、「3Dバイオプリント技術の応用開発」「生産・流通までの一貫したバリューチェーンの確立」「省庁や民間企業との連携による法規制整備への貢献」を進めます。また、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)での展示(予定)等を通じて、環境負荷を低減し世界規模のタンパク質不足を解決する「未来の食」の一つとしての培養肉の在り方を提示することで、生活者の理解促進につなげ、世界に先駆けての培養肉食用化の実現を目指します。


◆移行機会


2℃シナリオにおいては、環境意識の高まりを受け、環境負荷の低い代替肉の生産量が増加することが見込まれます。欧米や中国は2030年頃から大幅に生産量が増加するとみられ、東南アジア等の後進国においても2050年時点では一部の先進国を上回る生産量が見込まれています。 こうした環境下、植物性たんぱく質製品を取り扱う当社にとっては中・長期的に売上増加を見込むことができる大きな事業機会となり得ます。

<対応策>
当社は、代替肉の中でも植物由来の大豆ミート商品の発売を2020年から開始し、2021年度は商品ラインアップを37品目まで拡充しました。今後は、商品ラインアップの拡充と共に、食感・味・香り全てにおいて食肉由来品により近づけるための研究開発を継続して行っていきます。


大豆ミート商品

当社は、ノンミートブランドである「まるでお肉!」各シリーズの商品ラインアップを増やし、お客様に新たなたんぱく質摂取の選択肢をご提供しています。また、家庭でのアレンジが可能な未加熱素材「お肉屋さんの大豆 MEAT」シリーズを販売し、需要拡大が予測されるノンミート事業領域拡大への供給体制を整えています。


      


◆物理的リスク


4℃シナリオ下では、社会全体での脱炭素化が進まず、2℃シナリオに比べ消費者の環境意識の高まりは見込まれないため、人口の増加に伴い、食肉の生産量は2050年まで増加することが見込まれます。特に日本においては、食肉消費量は人口減少を加味しても2030年に向けて増加し、2030年以降減少傾向に転ずるものの依然として高い水準が維持される見込みです。一方で、家畜の飼料となる作物の土地面積当たり収量は、気温上昇、降水量・パターンの変化や洪水等といった事象に影響され、作物の種類と耕作地に応じて異なるものの、一部の作物においては減少する傾向が見込まれます。耕作地や水不足に起因した生産コストの上昇により、農産物の価格は2050年までに2012年比35%程度上昇するとのデータもあります。 4℃シナリオ下では、食肉生産量が増加する一方で、飼料の収量の増加が同程度見込まれないため、飼料価格が上昇すると考えられ、当社にとってコスト増となり得ます。

<対応策>
飼料価格高騰への対応策として、食料廃棄物の飼料転換や飼料効率の高い品種への切り替え、サプリメントの研究開発などを検討していきます。

4.戦略への反映

2022年度の分析は、加工食品事業・食肉事業の責任者及び事業戦略責任者を交えて議論を実施し、その分析結果はサステナビリティ委員会での審議を経て取締役会に報告しています。 本分析結果は、今後策定を進める当社の長期ビジョンや中期経営計画を含めた事業戦略に織り込んでいきます。


リスク管理

当社では、気候変動関連リスク及び機会が当社事業に影響を及ぼし得るものと認識し、これを全社的なリスクマネジメントプロセスの中で管理しています。気候変動関連を含む経営上のリスクについては、年に1回全社的なリスクマップの見直しを実施しています。具体的には、発生可能性と当社事業への損失影響度から定量的に評価を行い、当社事業にとっての重要リスクを選定し、取締役会にて分析・最終評価する仕組みとなっています。特定された重要リスクについては、対応策を策定・実行するため、リスク毎に管理責任者及び担当部署責任者を設定しています。担当部署責任者は、管理責任者の指示の下、各リスクに関連する情報収集、ステークホルダーや専門家との意見交換、コンサルタントとの検討等に基づくリスクの分析や対応策の検討を行っています。また、対応策を実行するため、当社グループ会社や関係部署にリスクや対応策の周知や教育等を実施しています。 気候変動関連リスクについては、シナリオを設定してリスクを分析・評価する方法を活用しており、毎年サステナビリティ委員会にてリスク評価を行い、必要な対応策について審議しています。分析・評価結果は、全社プロセスに統合され、他の経営上のリスクと一体となって管理されています。

リスク管理体制及びその役割

体制
役割
取締役会
  1. リスクを特定して分析・最終評価する。
  2. 特定したリスクに対してリスク対策を策定し実行するため、事業領域、職掌等を踏まえ、リスクごとにリスク管理責任者及びリスク担当部署を設定する。
  3. リスク管理体制の運用状況を監督する。
リスク管理責任者
  1. 計画、方針、規程、マニュアルを制定するなど、リスク対策を策定する。
  2. 取締役会のリスク分析・最終評価結果を踏まえ、リスク対策の見直し、改廃を行う。
  3. リスクが発生又は顕在化した場合、その重要度により、取締役会へ報告を行う。
リスク担当部署責任者
  1. リスク対策を実行するため、リスクに関係するグループ会社、組織、部署等に対し、リスク対策の周知、教育等を行う。
  2. リスク対策の見直し、改廃に必要な意見具申をリスク管理責任者に対して行う。
  3. リスク対策の運用状況のモニタリング等を行う。
  4. リスクが発生又は顕在化した場合、リスク管理責任者へ報告を行う。また、リスク対応責任部署が迅速かつ適正に対応・処理出来るように支援を行う。
リスク管理統括部署
(経営企画室)
  1. リスクの洗い出し(当社グループのリスクの調査)を行う。
  2. リスクの評価(リスクの影響や発生可能性などを分析)を行う。
  3. リスクの優先順位付け(どのリスクに優先的に対処するかの決定)を行う。
  4. リスクの一元管理を行う。

また、当社は事業投資や設備投資等の資本支出を判断する際には、気候変動を含めた環境・社会への影響も重要な検討要素の一つとして考慮しています。



指標と目標

当社は、連結ベースで気候変動課題に対応するべく、当社グループの温室効果ガス排出量(Scope 1・2)を2030年度までに半減(2016年度比)、2050年ネットゼロとする目標を設定しています。今後、削減目標の達成に向けたロードマップを策定し、取り組みを進めてまいります。


 

 
※集計対象範囲:伊藤ハム米久ホールディングス㈱と国内連結子会社を対象としています。なお、子会社は排出量・使用量の100%を算定に含めています。
※参照したガイドライン:GHGプロトコルの「コーポレートバリューチェーン(スコープ3)の算定及び報告基準」および「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」を参照しています。